【治安について】
台湾の治安は比較的安定している。とくに台北市内の治安は、日本と変わらないくらい安全であるといえる。
難点があるとすれば、バイクの量が多く、運転も荒いので、道路を横断するときやバスやタクシーの上下車の際は注意を払わねばならない。
最も怖い思いをしたのは、学生同士の抗争を偶然見かけたことである。ある日、駅に向かってひとり歩いていると、突然10台ほどのバイク集団が現れ、握っていた棒を掲げて、ハンバーガー店のテラスでハンバーガーに喰らいついていた学生集団を奇襲するというもの。私を含め周りの通行客は驚いて、呆然と見つめることしかできなかった。奇襲した学生たちはほんの1、2分で去ったが、奇襲を受けた学生は数人流血している様子だった。
それ以外は、至って平和な日々を過ごさせてもらっている。
最近、日本でも報道されている通り、台湾の立法院(国会に相当)が占拠され、抗議活動が連日続いている。初期の報道では、学生らを「暴民」と報道したメディアもあり、危険回避のため台湾旅行を控えた人も少なくないかもしれない。詳細は下に述べるとして、日常生活を送るうえで、身に危険を感じることはなかった。
街道沿いに掲げられた「廃除中華民国殖民体制 終結四百年的外来統治」の幕。
【台湾の近況~貿易協定をめぐる学生運動について~】
現政権が中国とのサービス貿易協定の審議を打ち切り、強行採決しようとしたために、3月18日深夜台湾大学を中心とする学生約300人によって立法院が占拠された。この協定は、単に貿易だけでなく、後の台湾と中国の関係にまで影響があるといわれ、多くの台湾民衆が不安を抱いてこともあり、議場内の学生を応援するための他の学生や民衆が立法院前へ抗議に訪れている。
3月30日には、立法院を占拠している学生グループの呼びかけで、総統府前にて大規模な抗議が行われた。参加者数は警察側の発表では11万人強、主催者や新聞報道では50万とも70万ともいわれている。
会場となった街道及びその周辺には黒い服を着て、ヒマワリの花を掲げる人で埋め尽くされ、この抗議運動の為に急遽設置された大型スクリーンには、壇上でスピーチする学生、民衆の姿が映し出され、参加者は拍手と声援を送っていた。特に学生が民主主義について力強く語る場面は、多くの参加者の心を動かし、台湾人が自ら勝ち取ってきた民主主義に対する意識を改めて強めたに違いない。戦後の台湾は白色テロ、そして30年以上の戒厳令という国民党政権による抑圧が続いたが、李登輝元総統の就任によって民主主義の道が開かれ、一歩ずつ発展させてきた歴史がある。戦後GHQに与えられただけの日本人とは違い、学生の意識は高く、演説を聞いていると感動とともに、恥ずかしい思いがこみあげてきた。
会場への案内、退出の誘導はすべて学生の自主的な行動によって進められた。私が会場に滞在した時間は長くはないが、あれだけの人がいて、支援物資の取り合いや、何かしらのいざこざはひとつとして見かけなかった。驚いたのは、少なくない参加者が会場を離れる際、政府関連施設前で警備にあたる警察官に対し「お疲れ様です」などと言葉をかけているのである。そして、警察官も微笑んでそれに応える姿は、一部新聞が報道した「暴民」という表現とかけ離れており、マスメディアによって作られるイメージというのが如何に恣意的で危険なものであるかというのを身をもって感じさせてくれた。
この集会は午後8時ごろから解散が始まり、深夜会場だった大通りは静けさを取り戻したのだが、人が去っただけではなく、食べ物や飲み物のゴミやプラカードなどもほとんど見当たらず、まさに日常への回復であった。少なくとも11万人、実際はそれ以上の人が集まった抗議集会だが、こんなに統制がとれた理性的な抗議活動は日本でもいまだかつて経験したことがないのではないだろう。彼らはヘルメットを被らず、黒いTシャツを着て、火炎瓶やゲバ棒を作ることを選ばず、ヒマワリの花を掲げることで抗議の意を示すことを選んだ。そして民衆の支持を得て、現政権に大きな衝撃を与え、全世界に民主主義を守る善良な公民としての模範を示した。
政府が現在及び未来の台湾人民のために最善を尽くし、歴史に刻まれるであろうこの学生運動が平和裏に終結することを願ってやまない。
学生に占拠された立法院。「中国党・売台院」の文字と緑の台湾旗が掲げられている。